ED治療薬の注意事項
ED治療薬と心血管疾患
日本国内での勃起不全、Erectile Dysfunction(エレクタイル ディスファンクション)の患者数は、現在推計1,130万人といわれており、これは40歳以上の男性の3人に1人が該当することになります。
EDには器質性・心因性・混合性・薬剤性などいくつかのタイプがあり、その原因もさまざまですが、中でも40代以上に多いとさせる「器質性ED」の背景には、糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病のある人が増加していることがあげられます。
厚生労働省の「主な傷病患者数」(H26年調査)でも生活習慣病の増加は示されており、これに伴いED人口も確実に増えていると考えられます。
また、生活習慣病が引き起こすケースが多いと言われる「心血管疾患」との関係は密接であり、EDがあれば心血管疾患が潜んでいるリスクを疑うべきだといわれるほどです。
さて、ED治療には手術、器具の活用、心理療法、ホルモン療法、薬の服用などがありますが、心血管疾患を持つ人にとってED治療薬の服用は大きな危険を孕んでいます。
このページではED治療薬の安全な使い方や効果的な服用の仕方を解説しましょう。
目次
ED治療薬の危険性とは
近年では、比較的低価格で症状や状況に応じて数種類あるED治療薬から選ぶことができ、さらに処方してくれる病院やクリニックが増えてきたためED治療薬で勃起不全を治療する人が増えています。
代表的なものは、バイアグラ、シアリス、レビトラなどで、2007年に日本でも承認されたシアリスは比較的新しい薬剤ですが、その持続性や服用のしやすさから最も人気があるといわれています。
現在の日本においてED治療薬とは医師によってのみ処方されるものですが、その作用から併用注意薬や併用禁忌薬が数多くあります。
併用注意薬は、使用上の注意を厳守すればED治療薬を併用できる薬です。
これには高血圧や前立腺肥大の治療薬の一部、急性心不全全治療剤のカルペリチドやアムロジン、ノルバスクなどの降圧剤全般などが含まれます。
一方、併用禁忌薬はED治療薬と併用すると危険性が高いため、該当の薬を服用しているとED治療薬は処方できません。
万が一、併用禁忌薬を一緒に服用してしまうと、急激な血圧の低下により非常に危険な状態になりかねません。
普段から通院しておらず医師が患者の服用している薬を把握していない場合、医療機関を受診する前には必ず現在服用している他の全ての薬の名称が分かるように薬手帳を持参したり、実際にその薬を持参したりし正確に情報を伝えることができるようにしましょう。
さらに日常的に服用している薬だけではなく、重度の肝障害がある人や血圧の上が90mmHg以下の低血圧の方、治療により管理されていない高血圧の方で上が170mmHg以上、下が100mmHg以上(共に平常時)の場合など、所定の状態にある方はバイアグラ、シアリス、レビトラの使用禁忌に該当します。
ED治療薬の作用機序を理解する
血管拡張作用の影響
それでは何故このように併用に注意をすべき薬剤が多くあるのでしょうか。ED治療薬の成分と作用について説明しましょう。
代表的なED治療薬であるバイアグラの主成分は、もとは狭心症の治療薬として開発が進められていたシルデナフィルクエン酸塩です。
ED治療のほかは、肺動脈性肺高血圧症の治療にも使われています。
勃起不全の原因にはPDE5(ホスホジエステラーゼ5)という酵素が大きくて関わっており、PDE5が活発に働きすぎることで陰茎内の血流に大きな関係のあるcGMPが過剰に分解され、陰茎に流れる血流が悪くなり勃起機能が低下するのです。
シルデナフィルには、そのPDE5を壊し分解するのを阻害することで筋肉を緩め、血管を広げる効果があります。
一方、シアリスはタダラフィルという成分で構成されており、シルデナフィル同様PED5に作用し正常な勃起を促す効果を持ちます。
そして、レビトラの有効成分は塩酸バルデナフィル水和物という成分からなっていますが、前述の2剤同様、血管を拡張させ血流を促す作用があります。
他剤との併用
3錠のED治療薬の成分の性質上、単体で服用するのではなく他の薬と併用する場合には十分に気を付けなくてはなりません。
ED治療薬と併用すると危険な薬はたくさんあるため、使用する際には正しい知識をもって使いましょう。
まず、バイアグラの併用禁忌薬です。
以下の薬を併用すると、急激な血圧低下を招く危険性があり、服用している方には処方できません。
塩酸アミオダロン製剤の商品では、アミオダロン塩酸塩錠100㎎、アンカロン錠100があります。
また、血管拡張薬の一種である硝酸剤では虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)の治療によく用いられる代表的な薬であるニトログリセリンをはじめ、アイスラール錠、アイトロール錠、イソコロナールRカプセル、エスタット錠などの飲み薬、ニトロールスプレー、ミオコールスプレーなどのスプレー薬、サワドールテープ、ジドレンテープ、フランドルテープ、ミニトロテープなどの貼り薬、そしてニコランジル点滴静注用やニトプロ持続静注液などの注射等、多岐に渡ります。
上述したものが全てではありませんので、必ず医師に確認し処方してもらいましょう。
次に、シアリスの併用禁忌薬ですがこちらもバイアグラと同様に、併用すると急激に血圧を下げる危険性を有するため処方できません。
多くはバイアグラの併用禁忌薬と重なりますが、バイアグラほど併用を禁止されている薬の数は多くはありません。
レビトラの併用禁忌薬は上記の硝酸剤などのほか、HIV治療薬の抗ウィルス薬でインビラーゼカプセル、カレトラ錠、カレトラ・リキッド、スタリビルド配合錠、ノービア・リキッド、クリキシバンカプセル、レイアタッツカプセルなどです。
さらに、内服の抗真菌薬ではイコナゾンカプセル、イトラコネート錠、トラコナ錠、イトラコナゾール錠、イトリゾール内服液などが対象になります。
抗不整脈薬の商品では、アジマリン錠50、アミサリン錠、シベンゾリンコハク酸塩錠、ピメノールカプセル、リスラミドR錠、アジマリン錠、ジソピラミドカプセル、チヨバンカプセル、リスピンR錠、硫酸キニジン錠などがあります。
3錠共通の併用注意薬および併用禁忌薬についても理解しておきましょう。
併用注意薬は使用上の注意事項をきちんと守ればED治療薬と併用することができるもので、高血圧や前立腺肥大の治療薬(一部)として用いられるα遮断薬である、ハルナール、カルデナリン、ハイトラシンドキサゾシン、テラゾシン、ミニプレス、アビショット、フリバス、ダウナット、デタントール、ユリーフ、イセプレス、トラブゾン、エブランチル、レギチーンなどがあげられます。
また、降圧剤全般とCYP3A誘導剤、急性心不全治療剤のカルペリチドも注意薬の対象になります。
ED治療薬の併用禁忌として共通していることは、ニトロが使えなくなる点です。
狭心症や心筋梗塞があり、発作が出たときのためにニトロを所持している人は、主治医に相談し慎重に服用しましょう。
ED治療薬を「医薬品」として認識する
持病への影響
ED治療薬は、精力剤でも媚薬でもありません。
医師の診断により処方される薬剤です。
正しい用法・容量を守り使用すれば非常に有効で安全な薬ですが、持病がある場合には注意が必要です。
以下の項目に該当する方は体への危険性が考えられるため、医師により特に慎重な判断が必要であったり処方の対象外であったりします。
- ・重度の肝臓・腎臓障害のある人
- ・血液の病気のある人
- ・陰茎の病気のある人
- ・心臓に関する病気のある人
- ・高血圧(170㎜Hgを超えていて医療管理されていない人)や低血圧(90/50㎜Hg以下の人)
- ・網膜色素変性症の持病のある人
- ・不安定狭心症の人
- ・3カ月以内に心筋梗塞の既往がある人
- ・6カ月以内に脳梗塞・脳出血の既往がある人
上記のように、現在の健康の状態だけではなく、既往症や持病についてもED治療薬を使用できるか否かの判断材料となります。
持病などについて詳しく把握しているかかりつけの医師でない限り、診察の際にしっかりと話をすることが必要です。
過剰投与による危険性
薬は何でもそうですが、処方された用法・用量をきちんと守り必要以上に投与することは大変危険な行為です。
ここでは、バイアグラ、シアリス、レビトラのED治療薬の服用について説明します。
バイアグラの最大用量は50㎎です。これは、欧米人よりも日本人の方が体格が小柄な人が多いことから日本人の平均的な体格や代謝機能を考慮して決められた上限になっており、場合によっては医師の判断で100mgの用量で使用できるためです。
シアリスおよびレビトラは5mg、10mg、20mgの3種類の錠剤がありますが、1日の服用量は20mgが限度で、これ以上の服用は推奨されていません。
また、服用後は、24時間以上あけて次の服用をするよう規定があります。
これは薬の効率のよい吸収を助けるとともに、副作用が強く出すぎることを避けるためです。
これらの用法・用量を守らずに効果が期待したよりも出ないからといって、規定以上の用量の服用をすると、体に悪い影響が現れ危険性が高まるのでしっかり守りましょう。
海外で行われた臨床試験によると、用量を増やしたところでその有効性にはほとんど変化がなく、かえって副作用が増加するという結果が出ているのです。
副作用の発症要因
薬を飲む際には当然「目的」があります。ED治療薬を服用する人の目的は、正常な勃起を促しその人の生活の質を向上させることにあるでしょう。
しかしながら、どのような薬にも「主作用」に対して大なり小なり「副作用」があるようにED治療薬にも副作用があります。
副作用は、目的以外の部位に好ましくない状態で影響が出ることをいいます。
これは年齢や性別、または服用時の体調にもより個人差がありますが、多くは治療する部位以外で薬が効力を発揮してしまい目的以外の影響がでてしまうという薬の性質によるものです。
副作用についても正しい知識を持ち、薬を飲むことが大切なのです。
それでは具体的にどのような副作用に気を付けるべきかみていきましょう。
まず、その効力の強さから副作用がでやすいバイアグラについてです。
バイアグラを服用すると全身の血流が促され血行が良くなる状態になるため、当然ながら下半身以外の部位についても同様の状態になり全身が充血し副作用が現れます。
代表的な症状としては、顔の火照り、頭痛、めまいやふらつきなどで、これは頭部の血管が広がったことで起きる症状です。
他にも、鼻がつまる、鼻血、消化不良や胃痛、動悸などといった症状が起こるケースもありますが、どれも一時的なものなのでそれほど深刻になることはないでしょう。
また、持続勃起症といい、平均の勃起持続時間4時間を大きく超えて勃起が継続するケースがあり、これは1日以上続くと勃起障害につながる恐れがあるので要注意です。
さらに突発性難聴になる人もいますが、バイアグラ服用との因果関係は明らかにされてはいません。
次にシアリスの副作用ですが、こちらはバイアグラとレビトラに比べ比較的副作用が出にくい薬とされています。
その理由としては、バイアグラとレビトラは服用後約30分から60分ほどで効果があらわれるのに対し、シアリスは服用してから効果があらわれるまでに約3時間を要し効果時間も24時間から36時間ほどと長いため、急激な体への作用が少なく副作用も緩やかにあらわれるためです。
その前提で出やすい副作用としては、頭痛、火照り、消化不要、背中の痛み、筋肉痛などが挙げられます。その他にも、鼻づまり、鼻水、めまいなどが出る場合もあります。
また稀に、眼痛や結膜炎など視覚に関する症状もあるようです。
レビトラの副作用は、バイアグラのそれと非常に似ています。顔の火照りや頭痛、動悸、鼻づまりなどです。
これらの症状はバイアグラと同様に薬が効いている4時間から6時間の一時的なものですが、副作用の出方が気になる場合や長時間副作用が続く場合には、ただちに服用をやめて医師に相談してください。
副作用や併用禁忌の知識を持ち、服用方法や禁忌事項を守り体調の悪い時は使用しないなど自身の状態をみながら使えば、より効果的にEDを改善することができるでしょう。
ED治療薬の安全性を確保するために
これまで記したように正しく使えば非常に有効なED治療薬ですが、注意事項を守らずに自己判断で服用することは大変危険が伴います。
近年、個人輸入業者などを通してED治療薬を入手する人も増えていますが、その場合は医師からきちんとその人の状態にあった薬を処方されていないリスクがあるだけではなく、注意事項や併用禁忌薬についても知らない状態で服用することになります。
実際に、健康被害が現れた人や併用禁忌薬と服用してしまい重篤な副作用が出た人、そして心肺停止をしてしまった人の事例もあります。
特に心臓に疾患のある人にとっては、性行為自体が負担になり禁止されている場合もあり、効き目の弱くないED治療薬の影響で心臓発作を起こす危険も考えられます。
初診時に、心電図検査や無症候性心臓病(むしょうこうせいしんぞうびょう)の検査をしっかり行ってからED治療薬を処方する医療機関も多くあるように、本来処方にあたっては非常に慎重にならなくてはいけない薬でもあるのです。
さらにここ数年は、偽物の薬も出回っており注意が必要です。
ネットで購入したED治療薬の実に4割が偽物というデータもあり、軽い気持ちでED治療薬をネットで購入・使用し不純物がたくさん入った偽造品により健康被害を訴える人も報告されています。
これらのことを踏まえ、ED治療薬は必ず添付文書を確認するか、医師の診断に従い正しい服用を心がけましょう。
ED治療薬の保管方法
折角購入したED治療薬も、正しく保管されなければ効果を発揮できません。
お薬によって正しい保管方法が異なりますので、医療機関へ確認するか、添付されている文書をよく読んで保管しましょう。
バイアグラ・レビトラ・シアリスなどは室温保存ですので、冷蔵庫等に入れる必要はありません。
ただし、高温多湿を避け、長時間日光に当てるようなことは避けるほうが望ましいでしょう。
錠剤をピルカッターなどで半分に切って服用している場合は、残りの半分の保存方法に少々注意が必要です。
可能な限りサランラップ、ティッシュなどでくるんで密閉し、お薬ケース等に入れて保管します。
夏場は1週間、冬場は2週間ほどで飲み切るようにし、なるべく早く服用します。
ピルケースに入れずにポケットや財布に入れっぱなしという状態は劣化の恐れがあるので避けてください。
医療機関からもらうお薬も、個人輸入の場合も気を付けなければならないのがお薬の使用期限です。
錠剤が入っているシート(PTPシート)の裏に記載されていることが多いのでご確認ください。
残ってしまったお薬を他人に譲渡することは禁止されていますので、使用期限が過ぎた場合は廃棄しましょう。
ED治療薬の注意事項は必ず守りましょう
近年、生活習慣病の多様化や長時間残業などによるストレス社会が、ED患者数の増加の要因になっているといわれます。
勃起が不十分なために豊かな性行為ができず、それがさらにストレスになってしまうという悪循環に陥る人も多いでしょう。
しかしEDは治療ができる症状であり、ED治療薬を適切に使うことで充実した性生活を送ることも可能です。
ED治療薬として有名なバイアグラやレビトラは食事の影響を受けやすいという側面もあります。
食事は満腹になるまで食べることを避け、食後2時間から3時間あけて服用するほうが効果的です。また、効果が弱くなってしまうため、過度に脂っぽい食事は避けましょう。
一方、シアリスは食べ過ぎやアルコールの摂取のしすぎは禁物ですが、成分の性質上食事の影響を受けにくいED治療薬です。
ED治療薬を安全かつ効果的に使うために、それぞれの薬の特長を知り、併用禁忌に気をつけて服用のタイミングや用法・用量を必ず守ることが重要です。
参考文献
ED治療薬
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