思いがけず見つかった勃起促進の適応症~ED治療薬の歴史~
ED治療薬で勃起力改善
バイアグラはED治療薬として誰もがその名前を知っている薬です。
しかしその知名度に反して誤解も多く、興奮剤のようなものと考えている方も少なくないでしょう。
ED治療薬は体を興奮状態にさせる薬ではありません。
勃起を起こす体のメカニズムのバランスが崩れて勃起力が低下している体に対し、正常なバランスに整える薬なのです。
これはEDに悩む男性にとってまさに夢のような薬でした。
今でこそED治療薬はバイアグラ以外にも存在しますが、その開発の歴史は意外にも偶然から始まります。
どのようにして人類初のED治療薬であるバイアグラが開発され、その後どのような薬が現れたでしょうか。
また、近年現れたジェネリック医薬品は先発のED治療薬からどのように変わっているのでしょうか。
ED治療薬の歴史を紐解いて行きます。
目次
シルデナフィルは狭心症の治療薬研究から
偶然見つかった適応症
バイアグラの主要成分であるシルデナフィルの研究は1990年代前半にイギリスのファイザー・サンドウィッチ研究開発によって行われていました。
ファイザー・サンドウィッチ研究開発とはアメリカに本社を構えるファイザー社の研究機関であり、当初シルデナフィルはEDの治療薬ではなく狭心症の治療薬として研究が進められていました。
しかし、度重なる臨床試験や研究の結果シルデナフィルは狭心症の治療薬として効果的ではないという結論に至り、最終的には研究の中止が決定されました。
ところがここでシルデナフィルの今後の命運を分ける転機が訪れます。
研究者が被験者から余剰のシルデナフィル錠の返却を求めたところ、被験者の多くが返却を渋ったのです。
その理由を聞いたところ、服用することで僅かながら陰茎の勃起力を向上させる作用があることが判明しました。
ではなぜシルデナフィルは男性の勃起力をサポートする効果があったのでしょうか。
それには男性の勃起のメカニズムについて説明する必要があります。
男性の勃起はcGMPという物質の働きによって血管が広がることで起こり、性的興奮が治るとcGMPを壊すPDE5によって勃起が治ります。
健康な男性であればそれぞれの物質が適量に排出されますが、加齢やストレスが原因でcGMPの放出量が減少することがあります。
その場合、勃起を促すcGMPの量は減少しているのにも関わらずcGMPを壊すPDE5は相変わらず出続けているという状態になるので、男性器が勃起しなくなるのです。
これがいわゆるEDです。
シルデナフィルが勃起力を向上させたのは、勃起状態を治めるPDE5の放出を抑える効果があるためだったのです。
この適応症が偶然にも発見されたことにより、シルデナフィルは狭心症の治療薬としてではなくEDの治療薬として研究が進められることになったのです。
バイアグラの誕生
そういった経緯からシルデナフィルは偶然にもED治療としての効果が発見され、1993年7月からED患者を対象とした試験が開始されました。
その後、有効性と安全性が認められ製品として発売されることになりました。
この薬は生き生きとしたという意味の「バイタル」と「ナイアガラの滝」の二つの単語を掛け合わせ、「男性の精力がナイアガラの滝のように溢れ出るほど満たされる」という意味を込めてバイアグラと名付けられました。
こうしてシルデナフィルを主成分とするバイアグラはED治療の効果を持つ医薬品として世界で初めて製品化され、1998年1月にアメリカで発売されると瞬く間に「夢の薬」「画期的な新薬」として世界中の注目を浴び、今ではED治療薬の代名詞ともいえる薬となったのです。
販売直後の混乱
バイアグラは男性が待ち望んでいた薬ということもあり、その青くひし形をした薬の形状から「ブルーダイヤモンド」とも呼ばれ、アメリカで発売されるとたちまち日本でも話題になりました。
しかし発売当初はまだ日本ではバイアグラの認可が降りておらず、ED患者は医療機関でバイアグラを処方してもらうことができませんでした。
そのような中、アメリカでの人気や薬の効果の噂を聞きつけた日本人が個人輸入によりバイアグラを手にするようになりました。
ところがここで問題が発生します。
個人輸入によって手に入れた日本人は当たり前ながら医療機関で使用上の注意点や併用してはならない薬の説明を受けていなかったため、誤った方法で服用するケースが後を断たなかったのです。
狭心症治療薬として使用される硝酸剤とバイアグラの併用は禁止されていましたが、それを知らずに使用し重い副作用を発生させる事例が増え、遂には心肺停止の事例も起きてしまいました。
この様な事故を防ぐためにはバイアグラを日本の医療機関で取扱えるようにし、使用の前に専門家による説明を受けるようにするしかありません。
こうして日本でもバイアグラの審査が進み、アメリカでの発売から1年後の1999年1月25日に厚生労働省の製造承認を取得しました。
さらに同年3月23日にファイザー社から医療機関への販売が開始されました。
他の外国の薬の認可が降りるまでに通常では10年間を要するところ、バイアグラは申請から承認まで半年間と異例のスピードでした。
それだけバイアグラに関する日本人の注目が高かったと言えるでしょう。
バルデナフィルは先行薬の弱点を改良したED治療薬
バイアグラの次に現れたED治療薬は製品名をレビトラといい、バルデナフィルを主成分としています。
レビトラはバイエル、グラクソ・スミスクライン、シェリング・プラウの3社で共同開発され、アスピリンの開発などで有名なドイツの製薬会社バイエルが製造販売しています。
バイアグラの主成分であるシルデナフィルが偶然的にEDに対して改善効果を発揮したのとは異なり、バルデナフィルは初めからからシルデナフィルの欠点を補完することを目的として開発が進められました。
シルデナフィルは食事と併用すると効果が半減する可能性があるという欠点がありますが、バルデナフィルはその欠点を補い、標準的な食事であればその効果に影響はありません。
とは言え、空腹時時に効果が出やすいことは確かなので可能な限り空腹時に服用した方が良いでしょう。
また、バルデナフィルはシルデナフィルより優れた即効性があります。
シルデナフィルが空腹時の服用後30分程で効果が現れるのに対し、バルデナフィルは20分後とより早く効果が現れます。
そのためシルデナフィルより服用のタイミングを計りやすいという利点もあります。
バルデナフィルは日本では2001年12月に承認申請が行われ、2004年4月に承認を取得、同年6月から5mgと10mgの販売が開始されました。
さらに2007年7月にはより効果の強い20mgの販売が始まり、即効性があって効果が強く現れるという特徴を持つバルデナフィルは日本においても人気が高いED治療薬です。
タダラフィルの作用は長時間型
先発薬と異なるタイプの治療薬
次に現れた新しいED治療薬は製品名をシアリスと言い、タダラフィルを主成分としています。
シルデナフィルやバルデナフィルと同様、タダラフィルにもPDE5の働きを阻害する効果があり、これにより男性器の正常な勃起力をサポートします。
タダラフィルはアメリカのイーライリリー社が2003年に発売し、日本では2007年に認可されました。
タダラフィルは先発のED治療薬とは根本的にコンセプトが異なる新しいタイプのED治療薬です。
具体的にはシルデナフィルやバルデナフィルが即効性に重きを置いているのに対し、タダラフィルは効果を発揮するまでの時間が3時間程度と遅効性です。
その代わり、シルデナフィルやバルデナフィルの効果の持続時間が4時間程度なのに対し、シアリスは最大36時間という驚くほどの長時間を誇ります。
これは、タダラフィルが先発のED治療薬の有効成分と同じPDE5阻害薬ではあるものの異なる分子構造を持っていることに理由があります。
シルデナフィルやバルデナフィルの分子構造が水に溶けやすいものであるのに対し、タダラフィルの分子構造はブロック体のため、体内に吸収されるまで長時間かかるのです。
このような理由からタダラフィルの配合されたED治療薬シアリスは、ゆるやかながらも長時間の効果を発揮する他にないメリットを持ち世界中で使用されることになりました。
また、タダラフィルのその他の特徴としては、バルデナフィルと同様に食事の影響が少ないという点と、シルデナフィルやバルデナフィルよりも副作用が弱いという点があげられます。
ED以外の適応症
実は、タダラフィルが効果を発揮するのはED治療だけではありません。
「肺動脈性肺高血圧症」と「前立腺肥大症に伴う排尿障害」にも効果を発揮し、それぞれアドシルカ、ザルティアという薬として販売されています。
どちらもPDE5を阻害することで筋肉や血管を弛緩させ、症状を改善する働きがあります。
ED治療としては、PDE5を阻害することで男性の勃起力をサポートする働きがあるので、ED治療薬のシアリス、肺動脈性肺高血圧症治療薬のアドシルカ、前立腺肥大症に伴う排尿障害治療薬のザルティアはどれもPDE5阻害薬としての作用を利用している同じ薬と言えます。
ではなぜ同じ薬なのに違う名称なのかと言うと、日本の健康保険制度と関係があります。
ED治療薬であるシアリスは保険適用外の薬なので、シアリスの名前のままでは保険適用の疾患の治療薬として厚労省に承認をもらうことはできません。
そのため、新しく別の名前をつけることで保険適用の治療薬として承認を受ける必要があったのです。
中身が同じ薬なのであれば「肺動脈性肺高血圧症」や「前立腺肥大症に伴う排尿障害」を装って保険適用でタダラフィルが手に入るのではとお考えの方もいるかもしれません。
しかし「肺動脈性肺高血圧症」や「前立腺肥大症に伴う排尿障害」の治療薬としてのタダラフィルの処方には厳正な検査が伴うので現実的ではありません。
また、症状を偽った場合は重い副作用が出た時の救済措置もないということも覚えておきましょう。
第4のED治療薬アバナフィル
ステンドラは主成分をアバナフィルとし、アメリカ、カリフォルニア州に本社を置くバイバス社が製造販売しているED治療薬です。
当初は日本の田辺三菱製薬が即効かつ副作用の少ないED治療薬としてアバナフィルの開発を進めていましたが、2001年2月に日本及び一部アジアを除く全世界での製造・販売権がバイバス社に移りました。
その後アバナフィルは2012年4月にアメリカでの承認を受け正式に販売が開始されました。
アバナフィルは日本では認可されていないためあまり馴染みがありませんが、欧州や韓国ではすでに販売されており、第4のED治療薬として注目を浴びています。
アバナフィルは先発のED治療薬と同じくPDE5阻害薬に分類されます。
持続時間はシルデナフィルと同じ4時間程度で、副作用が少ないとの評判です。
大きな特徴はその即効性にあります。
先発のED治療薬の中で最も即効性のあるバルデナフィルよりも更に早く、空腹時であれば15分程度で効果があらわれると言われています。
また、バルデナフィルと同様に食事に影響されづらいとされていますが、空腹時に服用する方が無難です。
アバナフィルは現在日本国内では認可されていないため、購入する場合は通販や個人輸入代行を利用するしかありませんが、偽造品が多いので信用できるルートで入手するようにしましょう。
各種ED治療薬のジェネリック
ED治療薬にもジェネリック医薬品が存在しますが、そもそもジェネリック医薬品とはどういうものなのでしょうか。
医薬品の開発には通常、多大な時間とコストがかかるため薬の販売額も高くなります。
薬の開発後一定期間は特許期間となり、他社が同じ薬を作ることはできません。
しかし特許期間を過ぎると他社も同じ有効成分で同じ効果を持つ薬を開発することができるようになります。
先に開発された薬のことを先発医薬品と呼び、特許期間が切れた後で開発された同じ効果の薬を後発医薬品と呼び、いわゆるジェネリック医薬品のことです。
ジェネリック医薬品は開発の手間がないため、その分コストもかからず安価な金額で販売することができるのです。
実は、ED治療薬のジェネリック医薬品は近年になるまで存在しませんでした。
なぜなら先発医薬品の特許期間が切れなければジェネリック医薬品も開発することができないからです。
ED治療薬自体の歴史が最も古いシルデナフィルでも1998年であるため、最近まで特許期間が継続していたのです。
そのため、日本初のED治療薬のジェネリック医薬品が登場したのは2014年と最近のことです。
ファイザー社が保持しているシルデナフィルの物質特許期間が2013年5月、用途特許期間が2014年5月に切れたため、各社がシルデナフィルのジェネリック医薬品を作ることが可能になりました。
日本で初めてのシルデナフィルのジェネリックは、2014年5月26日に東和薬品から販売されたものです。
先発医薬品のシルデナフィルが1錠1,500円程度であるのに対し、同じシルデナフィルが主成分のバイアグラジェネリックは1,000円程度と手を出しやすい値段となっています。
その後続々と製薬会社がシルデナフィルのジェネリック医薬品を開発し、日本では10社ほどが販売しています。
また、アメリカやフランス、インド、韓国などからも販売されており、水無しで飲めるタイプやゼリータイプなど様々な工夫がされています。
シルデナフィルの先発医薬品はそのブランドに対する信頼感がある一方で、ジェネリックは先発医薬品からさらに進化しているという点で人気が高まっています。
なお、ジェネリックのシルデナフィルは国内での通販を禁止されているため、医師の処方が必要となります。
ほかにもバルデナフィルの配合されたレビトラジェネリック、タダラフィルの配合されたシアリスジェネリック、アバナフィルの配合されたステンドラジェネリックなども多数の製薬会社で販売されていますが、いずれも日本では特許が切れていないため病院の処方で入手することはできません。
海外製品の通販は可能なので、海外製品を入手したい場合は海外からの流通経路を持った病院で購入するか、個人輸入もしくは輸入代行を利用して入手することになります。
個人で輸入する場合は偽造品に注意して信頼できるルートを利用しましょう。
現在は手間のかかる手続きや交渉を引き受けてくれる個人輸入代行業者も多くいますので、通販と同じ手軽さで購入したい場合は、そういった業者の利用も手段の一つです。
狭心症薬の研究からED治療薬が生まれた
誰もが知っているバイアグラは狭心症薬の研究から偶発的に生まれた薬でした。
その後、それを皮切りに新しくED治療薬が開発され、効果や副作用も以前に比べて改善されて来ています。
ED治療薬は当初の事故から危険な薬だという認識を持っている方もいると思いますが、禁止事項を守れば安全な薬です。
また、勃起不全改善という大きな効果があっても興奮剤ではないので性的興奮をしていない時にも勃起してしまうということもありません。
ED治療薬とは、成分によりそれぞれ特徴が異なるだけではなく、早漏改善効果のあるものも出ている選択肢の広い医薬品ですので、ライフスタイルに合わせて選ぶことをおすすめします。
日本の医院で手に入る中でもシルデナフィル・バルデナフィル・タダラフィルと三種類あり、それに加えて海外から輸入できるアバナフィルや、シルデナフィルのジェネリック医薬品もあります。
こうして偶然から始まったED治療薬は世界での需要のもとに今では種類が増え、多くの選択肢から選択することができる夢のような時代となっています。
参考文献
バイアグラインタビューフォーム
レビトラインタビューフォーム
シアリスインタビューフォーム
ED治療薬
関連ページ
ED治療薬とは~ED改善のための予備知識~
ED治療薬について|代表的なED治療薬の特徴と効果
ED治療薬の紹介|代表的なED治療薬とサプリメント
ED治療薬の効果|中折れしない勃起を維持できる効果
ED治療薬の副作用|主な副作用の症状と対処方法
ED治療薬の費用|先発薬とジェネリック・費用の違い
ED治療薬の入手方法|個人輸入通販と病院処方の違い
ED治療薬の服用方法|正しい飲み方で勃起の持続効果
PDE5阻害薬|各種ED治療薬のPDE5阻害効果
ED治療薬と精力増強剤・サプリメントの効果の違い
ED治療薬の注意事項|服用前に確認すべきこと
ED治療薬の適応症|勃起不全または勃起力不足の方
ED治療薬の形状|錠剤だけではない多様な剤型タイプ
ED治療薬の併用禁忌薬|飲み合わせができない薬
ED治療薬の疑問|他人には聞きにくい疑問点を解決
ED治療薬の種類|代表的な商品以外のED治療薬
ED治療薬の偽物|海外通販の正規品を見分ける方法