性感染症(STD)とは性行為により感染する病気の総称であり、俗に性病とも呼ばれます。日常生活の中で感染することはなく、基本的な感染経路は性行為になります。
性感染症に関して特に厄介なのは、たとえ感染したとしても症状が出なかったり、あるいは症状が少なかったりする点で、自覚症状が少なくとも、病気は知らず知らずのうちに悪化していきます。
また自分でも気づかないうちにパートナーにうつしてしまう可能性もゼロではありません。自分や大切なパートナーを守るためには性感染症に関する基礎知識や、性感染症の特効薬について知ることが大切です。
近年では医療技術も発達し、何歳になっても性行為を楽しめるようになっています。 しかしそれに伴い、性病も若い方から中高年の方まで幅広い年代に見られるようになりました。
性行為をすることで感染してしまう病気を総称して、性感染症といいます。しかし一口に性感染症といっても、実にさまざまな種類があり、種類が異なれば、もちろん治療法も異なります。からだに生じた症状からどんな性感染症に感染しているのかを確認し、適切な治療をおこなうことが大切です。
また先進国の中でも、日本は性感染症の感染者が増加傾向にある数少ない国だといわれていますが、性感染症の蔓延を防ぐためには、どのような自覚症状や感染経路があるのかを知ることが必要です。
国内でも知られる代表的な性感染症には、次のような種類があります。
どのような症状や感染経路があるのかを中心に、それぞれの性感染症について解説していきます。
クラミジアは、国内で最も多い感染症といわれており、「クラミジア・トラコマティス」という細菌が原因になり、通常の性行為、オーラルセックス、アナルセックスなどあらゆる性行為が感染経路となります。
感染すると約1~3週間の潜伏期間の経過後に初期症状が現れますが、性器の構造が男女で異なることから、クラミジアの症状も性別により異なります。
放置すると男女共に、不妊症の原因につながる恐れがあり、男性では約50%、女性では約80%の方が症状に無自覚といわれ、発見が遅れやすい傾向があります。さらに女性の方が症状に気づきにくい上に、感染が肝臓にまで達するなど深刻な影響を受けやすいので注意が必要です。
淋病とは「淋菌」という細菌が原因になる性感染症で、クラミジア同様、通常の性行為 、オーラルセックス、アナルセックスなどあらゆる性行為により感染します。また出産時に、母親から子供へと産道感染を起こすこともあります。
淋病に感染した場合、潜伏期間は2~7日ほどで、症状は性別により異なります。
男性はトイレに行ったときに激痛が訪れるため、淋病に感染したことを自覚しやすいですが、女性は症状が少なく大半は無自覚とされます。しかし淋病はクラミジアとの合併していることも多く、また放置すると不妊症のリスクも出てくるため注意が必要です。
梅毒は、かつて世界中で流行した性感染症で、特効薬が開発されて以来、感染者数は減っていましたが、近年の日本では再び感染が増えています。原因は「梅毒トレポネーマ」という細菌で、感染者とのあらゆる性行為の他に感染者とのキス、母親から子供への母子感染によりうつるケースもあります。
また梅毒は、症状が長期間かけて進行していくのが特徴です。
○第1期(感染後3週間)
・感染部位にしこり
・リンパの腫れ
○第2期(感染後3ヶ月以上)
・全身にピンク色の発疹(バラ疹)
・陰部にイボ
・脱毛
○晩期(感染後数年)
・全身の臓器にゴムのような腫瘍(ゴム種)
第1期、第2期の症状は治療をしなくても自然に軽快しますが、梅毒が治った訳ではありません。晩期まで悪化すると、ゴム種により全身の臓器を破壊され死に至る危険性もあります。
性器ヘルペスとは、「単純ヘルペス」というウィルスによる性感染症で、単純ヘルペスには1型・2型があり、性器ヘルペスの原因は主に2型となります。主な感染経路はやはり、あらゆる性行為ですが、性行為以外にもウィルスがついた手、タオルや食器などを介して間接的に感染するケースもあります。
性器ヘルペスの症状は、主に性器の水ぶくれ、腫れ、かゆみなどです。一度感染するとウィルスが体内に潜んでしまい、普段は症状がなく、疲れやストレスなどにより免疫力が落ちたときに何度も症状が再発するという特徴があります。
また初めて感染したときは症状が強く、全身のだるさやリンパの腫れが生じるケースも報告されています。
尖圭コンジローマとは、性器などにイボができることで知られる性感染症で、原因は「HPV(ヒトパピローマウィルス)」になります。感染経路の大半はあらゆる性行為ですが、まれにウィルスがついた手指やモノなどから感染することもあります。
尖圭コンジローマの特徴はその症状であり、発症すると性器や肛門の周りにイボができ、色は白やピンク、黒などさまざまで、カリフラワーや鶏のトサカのようなイボが複数、あるいは単独で発生します。自覚症状が少なく感染に気づかないことも多いですが、イボにかゆみや痛みが伴うこともあります。
また原因ウィルスのHPVには良性と悪性があり、悪性HPVは陰茎がん・子宮頸がんと関係していることがわかっており、感染者の方から悪性HPVが検出されることもあり、がんとの関係が疑われています。
トリコモナスとは、「トリコモナス原虫」という肉眼では見えない原虫が引き起こす性感染症で、若年層から中高年まで、感染者の年齢層が幅広いことが特徴です。
主にあらゆる性行為を感染経路としますが、他にも下着やタオル、便器や浴槽などモノや場所を介して感染することもあります。そのため性感染症でありながら、性行為の経験が無い方や子供も感染する可能性があります。
女性の場合、トリコモナスに感染するとさまざまな症状が見られます。
悪化すると不妊症や流産を招く恐れがあるので、早期治療が大切です。
一方、男性ではほとんど症状が出ないか、症状があっても軽いことが多いですが、症状が無くとも、パートナーにうつしてしまう可能性があるので注意しましょう。
HIV(エイズ)は、世界中で問題となっている性感染症で、一般的に"HIV=エイズ"と認識されていますが、実際には異なります。
HIV → ヒト免疫不全ウィルス
エイズ → 後天性免疫不全症候群
つまりHIVはウィルスを、エイズは病名をあらわします。HIVはあらゆる性行為で感染し、特にアナルセックスは感染リスクが高く、母子感染、血液感染によりうつる危険性もあります。
HIVに感染すると"感染初期→無症候期→エイズ発症"の経過をたどります。感染初期は発熱などインフルエンザのような症状が現れ、数週間で軽快します。
次に数年~10年ほどの無症候期を経て、エイズを発症し、この時期には体内の免疫システムの中枢であるTリンパ球が死滅させられ、人の免疫力も弱っており、そのためさまざまな病気を発症しやすくなります。
性器の周辺に違和感が生じると、多くの方が性感染症を疑うかもしれません。実際に性感染症は、性器に痛みやかゆみなど、何らかの症状を起こすものばかりですが、性感染症ではありませんが、同じように性器の周辺に何らかの症状を起こす感染症があります。
カンジダやいんきんたむしは、どちらも性感染症の一種だと思われがちですが、実際には、性感染症ではなく、性行為をしたことが無いような方でも、日常生活の中で知らないうちに感染することがあります。
ここからは、性感染症と間違われやすい2つの感染症についてご紹介していきます。
カンジダは、女性によく見られる感染症で、原因菌の「カンジダ」は真菌(カビ)の一種になり、健康な人の体内にも存在する常在菌となります。
普段、人の体内ではカンジダが繁殖しにくいようにバランスのとれた環境になっていますが、その体内バランスがさまざまな要因により崩れ、カンジダが繁殖してしまうと症状が現れます。
またカンジダは性行為でもうつることから性感染症と誤解されがちですが、正しくは真菌症に分類され、女性がカンジダを発症した際、主な症状は2つです。
性器周辺の強いかゆみ、痛みと、チーズ状のオリモノが見られ、男性にもカンジダが付着することがありますが、シャワーにより菌は洗い流されるため感染はほとんど見られません。
いんきんたむし(股部白癬)は、男性に多い感染症で、原因菌の「白癬」は、水虫の原因としても知られています。水虫は足に白癬が感染することで発症しますが、いんきんたむしは白癬が性器の周辺や太ももの付け根に感染することで発症します。
感染源と直接接触や、物を介しての感染経路が考えられ、例として水虫を発症している方の場合、自分の足に手で触れた後、その手でからだを触ったときに感染する恐れがあります。
またプールや温泉などの公共施設、水虫の足を拭いたタオルなどの物も感染源になるので、注意が必要です。
いんきんたむしに見られる特徴的な症状は、円形~楕円形の発疹で、患部の皮膚は赤くなり、さらに強いかゆみや痛みも伴います。
性病や、性器周辺に発生する感染症にはさまざまな種類があり、これらは、病気の原因となる病原体により大きく4種類に分かれます。
たとえばクラミジアと尖圭コンジローマは、どちらも性行為により感染する性病ですが、クラミジアは細菌性、尖圭コンジローマはウィルス性の性病になります。すると当然のことながら、病原体の種類により効果のある治療薬も異なるのです。
病原体の種類によりどのような治療薬を使用するのか、以下で解説していきます。
細菌性の性病には、主にクラミジア、淋病、梅毒があり、クラミジア・トラコマティス、淋菌、梅毒トレポネーマという名前からわかるように、性病の原因菌となる細菌はさまざまです、これらの細菌から引き起こされる性病を治療するときには、抗生物質が使われます。
よく耳にする抗生物質ですが、病原菌となる細菌を退治してくれる物質のことで、その始まりは1929年、世界初の抗生物質としてペニシリンが誕生しました。
ペニシリンとは、青カビから発見された物質で、当時は不治の病とされた梅毒の特効薬として、多くの人の命を救い、現代でも多数の抗生物質が開発され、細菌による感染症の治療に役立てられています。
性病の治療にはさまざまな種類の細菌に効果を発揮する抗生物質が使用され、たとえばクラミジアと淋病では同じ抗生物質が使用されることもあります。しかし、抗生物質と細菌の関係において問題になるのが薬剤耐性菌の存在です。
薬剤耐性菌とは抗生物質が効かないように進化した細菌のことであり、特に淋病の原因となる淋菌にも、耐性を持つものが登場しており、抗生物質が効かない淋菌は「スーパー淋菌」と呼ばれ、高い感染力を持つことから専門家らが警鐘を鳴らしています。
カンジダやいんきんたむしのように、真菌に感染することで発症する病気を真菌症といい、真菌とはカビのことですが、たとえば私たちが普段食べるキノコもカビの一種で、他にもチーズの表面に白カビを植え付けて熟成させるなど、人はさまざまな形でカビを利用しています。
しかしカビの中には、人のからだに悪さを働くものも存在しており、健康な状態であれば人には免疫機能があるため、病原体となるカビが体内に侵入したとしても感染することはありませんが、カンジダやいんきんたむしのような病気を発症するのは、疲れやストレスなどにより免疫機能が低下している場合です。
真菌による病気を発症したときは、抗真菌薬という真菌を死滅させたり、増殖を抑えたりする作用がある薬を用いて治療します。抗真菌薬は塗布タイプ・内服タイプの2種類があり、症状によって使い分けられます。
カンジダやいんきんたむしには主に塗布タイプの抗真菌薬で治療しますが、症状が強い場合や完治が難しい場合には内服タイプを使用することもあります。
真菌にとって、高温多湿な場所は最も繁殖しやすい環境です。そのため抗真菌薬と併せて、患部の通気性を良くしたり清潔に保ったりすることも治療のひとつになります。
性病の中でも性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、HIVなどはウィルス性の感染症で、前述した細菌とウィルスは一般的に混同されがちですが、実は全く異なる特徴を持っています。
まず細菌は、からだが1個の細胞で構成された単細胞生物で、あくまでも生き物であり、自力で繁殖する能力を有しています。
一方ウィルスは、生き物ではなく、自らを構成する設計図、つまりDNAがタンパク質に包まれているだけであり、自力では繁殖できないのです。
このように細菌とウィルスにはさまざまな違いがあり、病気の治療薬の種類も異なり、細菌性の性病には抗生物質を用いるのが普通ですが、ウィルス性の性病には抗ウィルス薬を使用します。
人の細胞に侵入したウィルスは自らのDNAを複製し、そして自らのコピーを作り出して増殖していきます。抗ウィルス薬はDNAの複製を阻害し、ウィルスの増殖を抑えることで病気を治療する薬で、ウィルスにも種類があるので、症状に合わせた抗ウィルス薬を選択して治療します。
しかし細菌と同じく、ウィルスにも薬が効かない耐性ウィルスが登場することがあり、耐性ウィルスを作らないためにも、抗ウィルス薬は決まった用法・用量での服用が大切です。
トリコモナスは、原虫が病原体となる性病で、原虫とは肉眼では見ることのできない、小さな単細胞生物のことになります。
ここまで紹介してきた細菌やウィルス、カビなどと違って原虫は聞き馴染みがないかもしれませんが原虫の仲間には、誰もが知っているであろう微生物もいます。
学生時代に理科の授業で、ゾウリムシやアメーバについて勉強したことがあると思いますが、これらの微生物も、原虫の一種なのです。原虫の中には、トリコモナスのように人や動物に感染して病気を引き起こすものもいます。そのような原虫による感染症に対して用いられるのが、抗原虫薬となります。
トリコモナスの治療に用いる抗原虫薬としては、メトロニダゾールとチニダゾールがあり、どちらの薬も人への作用が少なく、原虫にだけ毒性を示すため服用することでトリコモナスのような原虫症の治療が可能になります。
ちなみに、メトロニダゾールやチニダゾールは成分の名称で、臨床の現場においてメトロニダゾールは「フラジール」、チニダゾールは「ファシジン」という名前の薬に含有されています。
性病やそれに似た感染症は、さまざまな種類の病原体により引き起こされ、細菌・真菌・ウィルス・原虫はそれぞれ異なる性質を持つ病原体であり、治療するには症状に合わせた薬が必要です。
これまで、これらの病原体が引き起こす性病や感染症に対抗するために多数の治療薬が開発されてきました。
性病や感染症の治療に用いる薬の中でも、代表的なのは以下のようなものです。
主な治療薬について、どのような効果や特徴があるのかを見ていきましょう。
ジスロマックとは、マクロライド系と呼ばれる種類の抗生物質で、幅広い種類の細菌に効果があり、性病の治療薬としてはクラミジア、淋病などの治療に用いられます。
ジスロマックに含まれる「アジスロマイシン」は、人には影響が少なく病原体になる細菌にだけ毒性を示す成分で、人の細胞や病原体となる細菌は、どちらもタンパク質で構成されています。
そのため新たに細胞分裂をおこなったり、細菌が増殖したりするためには新たにタンパク質を作らなければなりません。このときにタンパク質を作る器官を「リボソーム」といいます。
ここでポイントになるのが、人の細胞と細菌ではリボソームの形状が異なる点で、ジスロマックはその違いを見極め、細菌のリボソームのはたらきだけを阻害します。こうした作用により細菌は新たなタンパク質を作ることができず、増殖も困難になるため感染症の治療が可能になります。
またジスロマックには、持続性に優れるという特徴があり、クラミジアや淋病の治療に用いる際にも1日1回の投与で済むため、服用の手間がかかりません。
しかし持続性に優れるということは、薬の成分が体内に長く留まるということで、服用が終わってから数日後に副作用が生じる可能性もあるため、十分に注意してください。
クラビットは、細菌によるさまざまな感染症の治療に用いられる抗生物質で、ジスロマック同様、性病の中ではクラミジア・淋病などに有効性があります。
有効成分は「レボフロキサシン」となり、細菌を死滅させる作用があります。まず細菌は1つの細胞から成り立つ単細胞生物であり、人の体内に侵入すると細胞分裂をおこなって増殖していきます。そして細菌が細胞分裂をおこなうときに必要なのが、DNAの複製です。
DNAは生き物の"設計図"といわれ、その生き物に関するすべての遺伝情報が欠かれており、このDNAを複製するときに必要になるのが、「DNAジャイレース」という酵素です。
細菌はDNAジャイレースを使ってDNAを複製しているのですが、クラビットはそのDNAジャイレースを阻害すると、細菌はDNAを複製できなくなり、細胞分裂も不可能になるため死滅するのです。
またクラビットはニューキノロン系と呼ばれる種類の薬で、他の系統の抗生物質にアレルギーがあっても服用が可能かつ、従来の抗生物質よりも抗菌力が強く、副作用も少ないことがわかっています。
アモキシシリンは、有名なペニシリンを改良して作られたペニシリン系の抗生物質で、主に梅毒の治療に使用される他、淋病にも効果を発揮します。ちなみにアモキシシリンは有効成分の名前であり、商品名は「サワシリン」、「アモリン」、「パセトシン」などの名称で販売されています。
アモキシシリンの作用は、人の細胞と細菌の違いに着目したもので、人の細胞は、中身の器官が細胞外に流出しないよう"膜"によって覆われています。この細胞を覆う膜のことを「細胞膜」と呼びます。対する細菌は、細胞膜に加えて「細胞壁」という頑丈な壁に守られています。
よって人の細胞と細菌の違いは、細胞壁の有無ということになり、そこでアモキシシリンには、細菌の細胞壁の合成を阻害する作用があります。こうした作用により細菌は細胞壁を作ることができなくなり、無防備な状態となるのです。
最終的には穴の空いた風船のように破裂し、細菌は死滅するため感染症が治療され、前述のように人の細胞は細胞壁を持たないため、アモキシシリンによる影響も受けにくいです。
バルトレックスとは「バラシクロビル」を有効成分とする抗ウィルス薬で、ヘルペスウィルスによって引き起こされるさまざまな感染症に対して治療効果を発揮します。
これらの病気は当然のことながらヘルペスウィルスが原因であるため、治療するにはウィルスの増殖を抑える必要があり、バルトレックスはウィルスの増殖を阻害する作用により、感染症を治療する薬となります。
人の体内に侵入したウィルスは自身のDNAを複製し、次々と増殖していきます。DNAには全ての遺伝情報が記されていて、ウィルスが増殖するには不可欠なものです。
そしてDNAを複製するときには、「DNAポリメラーゼ」という酵素も必要になり、バルトレックスはDNAポリメラーゼを阻害し、ウィルスの増殖を抑えることで性器ヘルペスなどの感染症を治療します。
またバルトレックスは、同じヘルペス治療薬の「ゾビラックス」を改良することで誕生した薬で、従来よりもからだに吸収されやすくなり、1日の服用回数も少なく済むようになりました。
ちなみにバルトレックスには、服用後に人の体内にある酵素によって薬の形が変わるという特徴があり、このような特徴を持つ薬を、プロドラッグと呼びます。
クロトリマゾールとは、真菌による感染症を治療する抗真菌薬で、アゾール系抗真菌薬という種類の薬で、カンジダや水虫などの治療に効果を発揮します。
カンジダなどの真菌症は真菌、つまりカビが増殖することで発症し、自然治癒されることはほとんど無く、真菌を排除して病気を治療するには抗真菌薬が必要です。
クロトリマゾールは、真菌にだけ毒性を発揮する薬で、人の細胞と真菌は、どちらも「細胞膜」という膜で覆われており、細胞膜は細胞の内側と外側を分けるために重要で、膜が無くなると細胞は死滅してしまいます。ですが人の細胞と真菌の細胞膜には、膜を構成する成分に違いがあります。
人の細胞 → コレステロール
真菌 → エルゴステロール
クロトリマゾールはこの違いに着目し、エルゴステロールだけを選んで阻害し、これにより真菌は細胞膜を失い、死滅していくためカンジダなどの真菌症が治療されます。
またクロトリマゾールは、成分名のことで、この成分を含有する薬はクリーム、膣錠、トローチなど剤形が豊富なため症状によって使い分けることも可能です。なお有名なカンジダ治療薬「エンペシド」にも、有効成分としてクロトリマゾールが含有されています。
アルダラクリームとは、尖圭コンジローマの治療に用いられる塗り薬で、有効成分「イミキモド」は日本で2007年に承認された、国内初のコンジローマ治療薬になります。
尖圭コンジローマの治療は、以前までイボそのものを外科手術で破壊する方法が主流でしたが、ウィルスは患部に残ってしまうため再発も多く、何度も手術を受けることになるなどの問題点がありました。
そこで登場したのがアルダラクリームです。アルダラクリームは、"ウィルス増殖抑制作用"と、"ウィルス感染細胞障害作用"、2つの作用で尖圭コンジローマを治療します。
人の皮膚には白血球の1種「単球」や、体内に侵入した異物を監視する「樹状細胞」が存在しており、アルダラクリームはこれらの組織にはたらきかけ、「IFN-α」というタンパク質を作り出します。
IFN-αは抗ウィルス作用があり、コンジローマの原因菌が増殖しないよう抑え、これがウィルス増殖抑制作用になります。
また同時にアルダラクリームはウィルス感染細胞障害作用を発揮し、「Nk細胞」や「キラーT細胞」を活性化します。これらの細胞は生まれながらに備わっている免疫細胞で、体内に侵入したウィルスを排除します。
2つの作用により免疫力が高まり、尖圭コンジローマが治癒していきます。
ファシジンとは、抗原虫薬と呼ばれる種類の薬で、有効成分「チニダゾール」が含有され、トリコモナスの治療に用いられます。
トリコモナスは、トリコモナス原虫という微生物に感染することで発症する性病の1つで、ファシジンはこのトリコモナス原虫に対してのみ毒性を発揮することで体内から排除し、症状を治療してくれます。
トリコモナス原虫を含む、全ての生物の細胞にはDNAが存在し、DNAにはその生物の遺伝情報が全て刻まれており、DNAを失った生物は生きていくことができません。
そこでファシジンは、服用すると中身の有効成分がトリコモナス原虫の体内に取り込まれます。すると薬の形が変化して「ニトロソ化合物」となり、トリコモナス原虫のDNAを切断してしまうのです。
これによりDNAを失ったトリコモナス原虫は生きていくことができなくなり、死滅します。よってファシジンはトリコモナス原虫のDNAを切断する作用により、トリコモナスを治療する薬となります。
ファシジンは飲み合わせの注意が少なく、他の薬とも併用しやすいですが、アルコールには注意が必要で、併用すると激しい腹痛が現れることがありますので、服用中~服用後3日間はお酒を控えるようにしてください。
デュオビルとは、HIV(エイズ)の治療に用いられる薬で、病原体となるウィルスの増殖を抑えることができ、中にはジドブジン、ラミブジンの2種類の有効成分が配合されています。
エイズの原因として知られるHIVですが、感染してすぐにエイズを発症させる訳ではなく、基本的には感染してから数年、あるいは10年以上もの年月をかけて人の体内で増殖していき、エイズを発症します。
HIVは、「RNAウィルス」というタイプのウィルスで、人は自身の細胞にDNAという遺伝子情報が組み込まれていますが、HIVはDNAが無い代わりにRNAを持っています。
ではHIVがどのように増殖するのかというと、人に感染したHIVは宿主の細胞に侵入します。続いてHIVは「逆転写酵素」を利用し、自身のRNAを金型にDNAを作り出し、そして作り出したDNAを宿主、つまり人のDNAに対して組み込みます。
これにより、人の細胞が"HIVの増殖に必要なタンパク質を作る"ようプログラミングされて、最後に人の細胞から作られるタンパク質とHIV自身のRNAから、新たなHIVが生み出されていきます。
そこでデュオビルは、HIVが持つ逆転写酵素のはたらきを阻害することでウィルスの増殖を抑制する薬となります。
ここまでご紹介してきたように、性病やそれに類似する感染症には多くの種類が存在しており、また症状が似ていても原因菌は細菌やウィルスなどバラバラであり、それらに対応するためにさまざまな治療薬も登場してきました。
ですが忘れてはならないのが、性病やそれに似た感染症は私たちの生活に身近な、いつ感染するかわからない病気だということです。もしも性病や感染症を発症してしまった場合のために、その治療薬にはどのような入手方法があるのかを知っておきましょう。
性病や感染症は自分だけでなく、大切なパートナーやこれから生まれてくる子供にも影響がおよぶリスクがあり、感染が発覚した際は、すみやかに治療することが大切です。
性病などに限らず、病気にかかった場合はまず病院やクリニックに行くのが第一選択ですが、恥ずかしい、性病と診断されるのが怖いなどの理由から病院に行くのを避ける方も少なくありません。
しかし性病は治療をすれば治る病気であり、しかも病院では保険が適用されます。そして性病は、人から人へとうつる病気なので、自分あるいはパートナーに性病の自覚症状が出た場合は、2人で一緒に受診することが必要になります。
また性病に似た感染症では、対応する診療科が性病とは異なることがあります。
カンジダ → 泌尿器科、婦人科・産婦人科いずれの病気も早期治療が肝心、気になることがあればすぐに病院を受診することをおすすめします。
性病は細菌やウィルスなどの病原菌に感染することで発症する病気で、病気の種類によって異なるものの、多くの性病において性器周辺にかゆみ・痛みなどの症状が出ることがあります。
薬局やドラッグストアで販売されている市販薬の中には、こうした自覚症状を和らげるような薬は存在しており、たとえばかゆみを抑える作用がある軟膏やクリーム剤などが該当します。
しかしあくまでも対症療法であり、性病の原因菌を退治するような市販薬はなく、性病への感染が発覚した際は、やはり専門機関での治療が必要です。
ただ、性病ではなくカンジダやいんきんたむしには市販の治療薬があり、病院を受診するのが面倒、近所に病院がないなどの場合は薬局やドラッグストアで治療薬を購入することも選択肢のひとつです。
国内を代表する「Amazon」や「楽天市場」は、数万点もの品揃えがある大手通販サイトですが、通常、国内の通販サイトでは性病の治療薬は販売されていません。なぜならジスロマックやクラビットなどの性病治療薬は、基本的に処方せんが必要な医療用医薬品だからです。
まず薬局やドラッグストアで販売されているような薬は、一般用医薬品(OTC)と呼ばれ、一般用医薬品は個人の判断で使用することが前提の薬で、有効成分の種類や含有量も比較的安全な範囲内で決められています。従ってカンジダやいんきんたむしなどの市販薬は、国内の通販サイトでも購入可能です。
対する医療用医薬品は、医師や薬剤師による管理が必要な薬で、有効成分の種類や含有量も症状に合わせて決められており、国内で市販されることはありません。
性病の治療薬は、基本的に医師の処方せんが必要な医療用医薬品ですが、病院やクリニックだけでなく、海外から個人輸入をするという入手方法もあります。
購入には言語の壁や通貨の違いがあり、高いハードルがあるように感じてしまいますが、そうしたときに便利なのが、海外通販サイトになります。
海外通販サイトとは、個人輸入の手続きを代わりにおこなってくれるサービスで、日本語で表記されているため面倒な手間はなく、国内の通販サイトと同じような感覚で海外医薬品を購入できます。
また海外通販サイトでは海外のジェネリックの取り扱いもあり、時間やお金を節約しての治療も可能です。
性病やそれに似た感染症は自覚症状が少なく、自分で感染していることに気づきにくい病気で、恥ずかしさや、性器を見せる不安から、治療に踏み出すことを躊躇する方も少なくありません。
しかし重ねての説明になりますが、放っておけばパートナーに感染、女性であればお腹の中の子供にもうつる恐れがあり、思い当たる行為や症状があるときは、勇気を出して治療を始めることが大切です。
また性病にはさまざまな種類があり、病気によって原因菌や症状が違えば適した治療薬も異なります。確実に治療をするためには、しっかりとご自身の症状に適した治療薬を使用しましょう。
医薬品情報サイト
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厚生労働省
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医療保険制度の制定も担い、海外医薬品の輸入に関する規則や検査もおこなっています。
東京都感染症情報センター
各都道府県等域内に1カ所、原則として地方衛生研究所の中に設置されており、保健所などからの患者情報、疑似症情報および病原体情報を収集・分析し、医師会等の関係機関に提供・公開しています。
製薬会社サイト
持田製薬株式会社
1913年創業、東京都新宿区に本社を置き、主に医療用医薬品を開発・製造・販売する東証一部上場企業。「独創研究」の考えのもと先見性と独創性にあふれる製品を販売し、日本の医療の発展に重要な役割を担っています。